以前に書いた記事ですが、本編が追い付いて来たので改めてNo.12としました。
週末はグライダー曳航機のパイロットしてます。
エンジンが無くて自力で離陸出来ないグライダーを飛行機に繋いで空に連れて行くフライトです。
「空に連れて行く」なんて書くと何だかカッコイイ感じがしますが、、、
グライダーを曳いて希望の空域と高度に昇り、
グライダーが離脱したら大急ぎで着陸
まぁ、つまりは「馬車馬」ですね
グライダーを曳く曳航機はシンプルでハイパワー
4人乗りのセスナ172より大きいエンジンを
2人乗りの軽量な機体に載せているので上昇率は抜群
グライダーを曳かないで単機で飛ぶとビックリするほど昇ります。
今回は飛行機のパワートレインをご紹介
もちろん主役は「ハスキー君」
普段は優雅なグライダーにコキ使われている日陰の存在ですが、
今回は主役に抜擢です!!
左、、、
小さく見えますが、360キュービックインチ 5899ccの水平対抗4気筒エンジンです。
飛行機エンジンの特徴は低回転 高トルク
最高回転数は2700rpmで最大出力は180馬力です!!
回転数が低いから最大出力はショボイです、、、
見えない部分ですが一番の違いは「設計思想」です。
車やバイクのエンジンはフルパワーで走らせても簡単には壊れませんよね
昔の2ストローク50ccの原付スクーターなんかスピードリミッターを解除して
フルパワー(70~80km/h位)で巡航しても意外と大丈夫です。
(もちろんバンク付きオーバルの高速周回テストコースでのお話です)
ところが飛行機のエンジンはフルパワーを使える時間が制限されています。
つまり、エンジン強度や冷却容量を巡航時に最適化して
離陸時に使うフルパワーは「無理させる」事を前提としています。
もちろん制限を無視して際限無しにフルパワー使えばシリンダーヘッド温度や油温が上がりオーバーヒート、
もちろんエンジンは傷みます。
なんでそんな無理させるの?って、、、
フルパワー使いまくっても大丈夫なほど
頑丈に作ったら重くて飛べないんです!!
見た目でわかる構造的な特徴は
高回転を狙わないからバルブ系はシンプル「枯れた技術」の2バルブOHV
今時、プッシュロッドが付いてる乗り物エンジンは”アメリカンV8”と”ハーレー”位しか無いんじゃない!?
アメリカ人ってどれだけプッシュロッド好きなんだよ、、、
どうせ上空に昇れば空気は冷たいからシンプルに空冷エンジン
壊れなくて軽いのが一番です!
1気筒1000cc越え&デカい燃焼室
とにかくでっかく作っちゃったから燃焼効率が悪いし
故障によるエンジン停止のリスクを下げるツインイグニッション(ツインプラグ)
しかもバッテリーが無くても関係無しのマグネトー点火方式
一番故障しやすいのが点火系ですからシンプルかつ2系統です。
右マグネトと、、、
ちょっと昔のアルファロメオのツインプラグは?
小さい燃焼室に無理やり2本プラグ生やしちゃうのはイタリア人の伊達と酔狂、男のロマンです!!
燃料供給はキャブレターもしくは機械式インジェクター
上空に昇ると空気が薄くなるのでミクスチャーレバーを操作することで、
エンジン運転中に空燃比を調整(燃料を絞る)できます!!
原付だって電子制御インジェクター、、、、
キャブレターには任意でマフラー周囲の熱交換器で暖めた空気を吸気させて
キャブレターの凍結によるエンジン停止を防ぐ「キャブレターヒーター」(キャブヒート)が装備されています。
車やバイクだとスロットルボディやキャブにエンジン冷却水を廻らせて温めてます。
Turbo付きエンジンだとブーストコントロールレバーもあり
ブースト(過給圧)を調整して高空まで地上と同じ出力を維持します。
コレが本来のTurboの使い方
飛行機のターボってデッカイですよ~
エンジン始動時に使うデバイスとして昔のキャブエンジンの車やバイク、草刈り機エンジン等に
装備される「チョーク」(吸気を絞るって意味のチョーク(絞る)が語源です。)の代わりに
小さなプランジャポンプ(注射器ポンプ)で吸気バルブ付近に直接燃料をブチ込む「プライマー」が装備されます。
調子に乗って打ち込み過ぎるとインマニに燃料が垂れて「ばんっ!!」ってバックファイヤします
と、まぁ、、、エンジンで目立つ違いはこんなところでしょうか
次にエンジン出力を推力に変換するのがプロペラです。
車やバイクのトランスミッションに相当するのがプロペラピッチコントロールで
可変ピッチプロペラは飛行中にプロペラピッチを変更して任意の回転数に設定できます。
プロペラピッチの調整方法は、、、
①離陸時は最大出力を得る為に最高出力回転数で運転
(低速ギアでブン回すイメージです)
②巡航時は最良燃費を得る為に回転数を抑えて許容する最大吸気圧力(マニフォールドプレッシャー)で運転します。(6速に入れて回転数を抑えて巡航って感じ)
飛行高度により最良巡航セッティングは変化するので飛行規程やオペレーションハンドブック(飛行機の取説)でセッティングを調べます。
③着陸時は緊急時の再上昇に備えて離陸時と同じく最高出力回転数に合わせます。
④故障によるエンジン停止時はプロペラピッチをフルハイピッチ(目一杯低回転)にセットするとプロペラが風車になり生じる抵抗を最小に抑えて滑空性能が向上します。
(僅かの差で生死を分ける可能性を考えれば重要事項です)
実際に飛行機のエンジンを運転すると
最近の自動車やバイクのエンジンがどれだけ機械として完成度が高いかが理解できます、
スターターを回せばエンジン始動
あとは全て電子制御で運転制限なんて無いし
ダメなら制御が入りますから「ドライバーのミスでエンジンを壊す」事は不可能
航空機エンジンは使い方を間違えると壊しちゃいます、、、
飛行機のレシプロエンジン運転に必要な操作系は、、、
●始動時に追加燃料を吸気ポートに吹く小さなポンプの”プライマー”
●エンジン出力を調整する”スロットレバー”
●上昇に伴う空燃比の調整をする”ミクスチャーレバー”
●エンジン出力を効率よく推力に変換するためにプロペラピッチを調整する”プロペラピッチレバー”
●降下時のキャブレター凍結を防ぐための”キャブレターヒーターレバー”
●2系統の点火系のON/OFFを切り替える”イグニッションスイッチ”
操作系はコレくらい、、、
さらにエンジンの運転状況を監視するメーターは
●皆さんお馴染みのタコメーター 「2700rpmまでキッチリ回せ!!」の”回転計”
●昔の人なら知っているバキューム計”マニフォールドプレッシャー”(通称MAP”まっぷ”)
●空冷エンジン必須”シリンダーヘッド温度計”
●車と違ってガチの温度を示す(笑)”油温&油圧計”
●ちゃんと発電してるか監視しましょう”電流計”
ハスキーはエンジン1発なので計器が少くてシンプルですが、
エンジン2発、3発、4発って増えるとレバー関係メーター関係はエンジン基数分だけ増えていきます。
昔のレシプロ4発エンジンのコクピットは松本零士の世界、、、
下手すりゃコーヒーカップにすらメーター付いてます(笑)
●翼の中に組み込まれた燃料タンクにホースを繋いだだけの超シンプルで故障知らずの”燃料計
●コクピットのアクリルウィンドウに刺さっているのは”外気温度計”
暑い寒いでエンジン&空力性能が大きく変化するので けっこう大切な計器です。
こんな感じで
航空機用レシプロエンジンは徹底的に故障を嫌った「枯れた技術の集大成設計」
運転も電子制御無しの究極ローテクエンジン(笑)
整備も運転時間で管理されていて、使用時間が尽きればO/Hもしくはエンジン交換が必須になります。
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改めて考えると、動力の電動化は運用者にとって「福音」なのカモですね・・・。
電動になれば部品数も一気に少くなるので故障のリスクも低くなりますし
オペレーションも簡単になります。
さらに昨今、航空ガソリンの国内生産が終了して航空ガソリンが全ての輸入に切り替わり入手が難しくなっています。
航空ガソリンを在庫している飛行場も限られているので電動化は嬉しい技術です!
まだバッテリーのエネルギー密度が低く航続時間が全く足りず
短時間フライトの実験機レベルですが
バッテリー開発は電気自動車の開発競争で加速しているので楽しみです。
電気で飛ぶと未来が訪れるまでローテクエンジンと一緒にがんばります!
本当に、信頼性が第一の世界ですね!
昔、親が乗っていた910ブルーバードは、NAエンジンながら、バキューム計が標準でした。
このような理由なのですね。
「軽くて壊れない事」が何よりも優先されたエンジンですよね
バキューム計が標準装備の車も珍しいです、始めて知りました。
車だと燃費狙いに使うんでしょうね
MAPはスロットルバタフライからエンジン側のインマニ圧力を表示するので
同じ回転数でもより圧力の高い(大気圧に近い)方が高負荷運転状態になります。
回転数(プロペラピッチ)とMAP(スロットル)の調整で巡航燃費と離陸最大出力を調整して、
空気密度補正(飛行高度)を「リーンピークA/Fによる回転数変動に排気温度計を使ってマージンを乗せる」ミクスチャー(混合比調整レバー)を調整する
最初はややこしいですが、ECU無しのフルマニュアルはエンジンの理解が進みますよ~
はじめまして。乗り物好きのアラフィフ男です。
不躾を承知で1つ質問させていただきます。
この飛行機はエンジン始動後、どのくらいの時間アイドリングをするのでしょうか?
実は先日『荒野のコトブキ飛行隊』というスカイアクションもののアニメの放送が始まったのですが、アニメオタクたちの中に「主人公がエンジン始動後アイドリングをほとんどせずに発進するのはおかしい」という意見が出ています。
私は「気温の低いところで使うエンジンだから地上で長時間アイドリングをするとオーバーヒートするのでは?」と思っているのですが…
液冷のロールスロイス・マーリンは地上でのアイドリングは5分以内に制限されていたというのは分かったのですが、空冷エンジンについてはよい資料が見つからなかったので質問させていただきました。
Kazzuoさま
コメントありがとうございます
エンジン始動後の暖気運転とチェックですが
「エンジンを適切な運転温度」まで暖めて各部品の熱膨張を設計値に揃えて正しく運転するために行います。
結論としては、、、その時の外気温度に左右されます。
もちろんエンジンの種類により暖気に必要な時間は異なり
同じエンジンでも搭載する機体が異なればカウリング等の冷却設計の違いで暖気に必要な時間は異なります。
つまり、、、厳密に「何分」って答は無く
「適切な運転温度になるまで指定された暖気運転の回転数で待つ」としか言えません、、、
参考までに自分が飛ばしている小型機のA-1Huskyでは油温100°F(約38℃)が指定された最低温度なので
冷えた状態から油温が100°F(約38℃)になるまで冬は10分位 夏は5分位必要です。
夏は油温が上がるのが早いので
僕は他の部品の暖まり加減を考慮して100°Fになっても少し待ちます。
油温が最低温度を超えてからエンジンの機能チェックを行うのが5分位は必要なので
エンジン始動後に15分位は必要です。
暖気運転とエンジンチェックが終われば離陸の準備に入ります。
マーリン等の高出力エンジンですと発熱量が多く
かつ冷却系が飛行時の大気速度に適正設計されているので、
地上で停止状態でプロペラ後流をラジエターに当てるだけでは冷却不足でオーバーヒートになるのかもしれませんが
油温もしくは水温が適正になるまで暖めてエンジンチェックするのは同じです。
アニメの劇中でエンジン始動後に暖気運転とエンジンチェックで15分使ったら、、、
放送時間がいくらあっても足りないですよね(笑)
アニメは娯楽ですので、あまり突っ込んまずに楽しめば良いと思います
航空機が出てくる映画などを見ると「そりゃ無いなぁ~」ってのが色々ありますよ
字幕の和訳なんて壊滅的なヤツありますから
実際の戦争で迎撃の際はエンジン寿命が短くなる事を無視して始動直後の冷えた状態で最低限のエンジンチェックの後に即フルパワーで離陸していたのかもしれません
エンジンの寿命よりパイロットが生き残る事が大切な状況で飛んでいたエンジンですから
丁寧な解説をいただき、ありがとうございます。
やはり映画やアニメの「敵機来襲→.エンジン始動後直ちに離陸して迎撃」というのはフィクションというか尺の都合ということですね。
「アイドリングや離陸前チェックもせずに離陸するのはおかしい」と野暮なツッコミを入れるのではなく、「尺の都合でカットしているんだな」と大人の余裕(笑)で見ることにします
航空機用ガソリンの国内生産が終了しているというのは初めて知りました。
以前テレビで見たスピットファイアを動態保存しているコレクターが言っていた「部品はいざとなったら作ればいい。問題はいつまで石油会社がガソリンを作ってくれるかだ」というブリティッシュジョークが将来現実になるかもしれないということですかね