幸運の空

週末の天気予報は「強い寒気の流入により厳しい冷え込みに、、、」
なんて言葉が聞こえていました
上空に寒気が入り、地面が乾いていて温まりやすく、日射が強ければ上昇気流が発生しやすい好条件
「日曜日は条件良さそうだから飛べるねぇ♪」
って布団に入って目が覚めたら

8時30分~っ!! 

なんでアラーム鳴らないんだよっ!! って枕元のスマホを掴むと
「さんざん起したんだけど、起きないあんたが悪い」と言わんばかりに「スヌーズ5分済」の冷酷な表示が

うーん、この条件の日に寝坊するとは、、、早めに行ってPW-5を予約しちゃうつもりだったのになぁ
こうなったら、どうにもならないのでキッチリ朝ごはんを食べて、325iカブリオレで富士川滑空場へ
東名高速を走り富士川滑空場に到着したのは10時近く

次々と機体が飛び立って行き、曳航機が暇そうにぽつんと駐機しています
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上空の様子を聞いてみると、南風と北風がぶつかっている境目が海岸線近くにあって、
昇降計(上昇、降下率を表す計器 バリオメーター)の指示が+5m/s~=5m/sのフルスケール両方を振り切る程の
荒れたコンディション
飛んでいる機体を見ていても、物凄い勢いで上昇していると思ったら、すーーーっと高度が下がったりしている

お目当てのPW-5は1500m近くまで昇っていて、すでに”青空の白い点”状態
まぁ、、、飽きた頃には戻ってくるでしょ

地上でパンをかじったりしてノンビリ過ごしながら練習機ASK-21の「30分縛り」運航のお手伝いをしながら待っていると
お昼過ぎにPW-5が帰ってきました、(おなかが空いたのかな?)

お弁当のロースカツ丼を地上に残した事を心残りに離陸すると、曳航機は真っ直ぐに風の先目に飛び込んでいく
最初はゴトゴト揺れる程度だったのが、だんだん酷くなってきて明らかに持ち上げられたり、ストンと落とされたり
600mを超えたところで曳航機から離脱して荒れた空域の上昇気流を探す

北風と南風がせめぎ合って、行き場を失ったエネルギーが上空に吹き上げている状況なので、見事な荒れっぷり
海上は風の境界線に沿って白波が立っています
セオリー通りに境目に平行に飛んで上昇を探してみても、昇降計の針は上下フルスケールを行ったり来たり
Gを感じるほど上昇気流に持ち上げられたかと思えば、すべてのエネルギーが取られるように降下していく

どうやら今回は綺麗な前線面を作っていないようです。

風の息(強弱)によって凸凹な前線面になっているので平行に飛ぶと凸凹を拾ってしまう
上昇気流域は強烈なので、そこに留まれるように小さく旋回すれば昇れるはず
機首を巡らせて、もう一度平行に飛んで持ち上げられるタイミングを待つと
ゴトゴト揺れた後に、一気に機体が持ち上げられるGを感じる
風に流されないように風上側にバンクを取りつつ海岸線を確認して自分の位置を記憶
バンク45度での旋回に落ち着けて昇降計を見ると+5m/s振り切りっぱなしで上に張り付いてます
スルスルと高度計の針が昇り始め一気に500mから1200mまで上昇

十分に高度を獲得して安心したところで、急に風の音が無くなり機体速度が一気に失われる
失速→スピンに入るのを防ぐために本能的に操縦桿を押し機首を下げる
ふわっと柔らかくG抜きながらバンクを戻し速度を回復させる
風の音がわずかに大きくなり操縦桿の手ごたえが増すことで速度が戻った事を認識してから速度計を見ると60km/hちょっとから加速中
風に流されて上昇気流のすぐ隣にある強烈な下降気流に入ってしまったようで、ちらっと見た昇降計は下向きに振り切れて張り付いている
出来る対処は一つだけ

とにかく速度を付けて下降気流域からさっさと出る事!!

せっかく手に入れた高度をあっという間に失いながら、万が一上昇気流を捕えられなかった場合に備えて海上から滑空場に進路を寄せていく
真冬に機体ごと海水浴だけ絶対にイヤ!!

400mまで叩き落とされて、いよいよ滑走路に滑り込む決心をしようと思った瞬間に、上昇気流にHIT
+2m/sで今日のコンディションでは比較的弱いものの、滑走路の延長線上なので着陸前ラストチャンスにしては上出来
「コレを外したら迷わず着陸」の決心を固めて、とにかく丁寧に回り込んで上昇気流の芯を探る
必死にしがみ付いて、高度を800m付近まで回復したところで上昇が渋くなる

どうやら風の息が変わって上昇気流が無くなってしまいそうな雰囲気
時計を確認すると離陸してから、1時時間ほど、、
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ちょっと前から、隣の上昇気流でわずかに高い高度をASK-21が昇っているのを見つけていたので
弱くなった上昇気流に見切りをつけて、ASK-21の下に滑り込む
さすがに重い複座機が選んで乗っている上昇気流(笑)バリオが+に張り付き一気に1500mまで高度回復
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1500mを超えてから相変わらず昇降計の針は大きく振れるけど、穏やかな空
代わりに北風が強くなっているので気を付けないと風下に流されそう、、、
海上の風の境目の上昇気流「コンバージェンス リフト」でもう少し高度を上げて1700mまで上昇
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三保~焼津~御前崎方面まで見えてきます。
海岸線のコンバージェンスに見切りをつけて、思い切って風上に昇ってみることに

北に進路を取り、マクレディリングの示す沈下率に合わせた滑空速度で北に進むけど、、、
風が強くてちっとも進まない!! 
救いなのは強い北風の中、ここそこに上昇気流が立ち昇ってくるので高度維持は思ったより容易
ってより「入れ喰い状態」

先日の板倉滑空場で強風待機の時に聴いた「ソアリング講習会」の内容を思い出しながら、上昇気流を捕える良い練習になりました。

①通常の沈下率で前進していると次第に沈下率が増えてきて機体が沈み始める
これは上昇気流の周囲にある下降気流域を通過している

②次に気流が悪くなってきて、機体がゴトゴトと揺すられ始め、次第に上昇を始める
これはこの先にある上昇気流と下降気流の間の風の境目で摩擦によるシアーが発生して空気が渦巻いているから
ココではまだ上昇気流に入りきっていないので旋回したくなるのを我慢して、もう少しだけ前進

③ゴトゴト域を出ると安定した上昇気流域に入り静穏な気流の中で機体が持ち上げられるGを感じる
ココが勝負ドコロで操縦桿を柔らかく保持して、左右どちらの翼が持ち上げられるかを観察する
(上昇気流は中心のコアの部分が最も強い上昇率なので、持ち上げられた翼の方にコアがある)

④持ち上げられた翼の方向に持ち上げられる力をエルロンで抑え込むように丁寧に滑らかに旋回に持ち込む
上昇気流によるG変化を感じられるように丁寧に操縦する

⑤旋回方向が正しくコアを中心とした旋回に持ち込めれば、静穏な上昇気流の中で昇っていける
旋回方向を間違えればシアー域に入っていくので静穏上昇域と乱気流域が交互に現れるので、
バンクを調整してコア(中心)に寄せていく

北上しながら上昇気流に当たる毎に繰り返し練習をしていると、次第に高度が上がっていき 2000m超え
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富士~沼津~三島まで見えています。

この後さらに昇ってコンスタントに2500mを維持
この高度までグライダーで昇ったのは初めてです。

この日の最高高度は2800m
外気温度は確実に-10℃を下回っています。

ダウンジャケットを着こみ、キャノピー越しに日の当たる部分は快適ですが、
つま先と指先の感覚はすでに失われてゴワゴワ状態
足を揉んだり、指を交互にポケットで温めながら高高度を飛び続ける
深く息を吸い込むと、冷気が流れ込み染みていく
この温度になると、自分の吐いた息がキャノピーに当たると、水分が凍り付くんですね、、、、

年に数回の幸運の空でのフライトなので、出来る限り飛び続ける事にする
この高度になると、小さいグライダーに身を任せて風の力だけで飛んでいる事を思うと不思議な感覚になります。
広い空をポツンと一人飛んでいてちょっと寂しいけど、誰にも邪魔されない自分と機体だけの世界に居るような、、、
黙々と上昇気流を捕えて昇り、エリアを移動して、上昇気流に当たれば捕らえて昇る、
自分の位置と高度を確認しながら、無心でひたすら飛び続ける

ピストから無線が入り、無情な「そろそろ片づけるから帰ってこい!!」コールを受けて
9km程北側から滑空場へ真っ直ぐに進路を取り、高度処理して無事に着陸
行きは向かい風で苦労した分だけ、帰りは追い風に乗って数分で到達
着陸後はあまりに冷えて足の感覚が無くなっていました(笑)

飛行時間は3時間18分
最高到達高度2800m
到達高度は自己記録更新です♪

GPSロガーを搭載していれば”獲得1000m”の申請が出来たなぁ、、、

今回、2800mの空から持ち帰った成果は、先日のソアリング講習会で学んだ事を実践練習できた事
少しだけソアリングの世界が開けたかな?