サスペンション独学ノート 2017年まとめ⑤「スプリング自由長の設定」

ダンパーの寸法と減衰力が決まり、ダンパーが完成したので、
p1
次はスプリング自由長の選定です。
スプリング自由長の選定で満足すべき諸元は

「ダンパーストローク<スプリングストロークを満足している事」の1点です。
スプリング選択
スプリングには有効ストロークがあり、「有効ストローク=メーカーが性能保障した弾性変形領域」なので
有効ストローク範囲内で使用しなければなりません、

 この有効ストロークを超えた場合、塑性変形領域に入るので、縮められたスプリングは元の自由長には戻りません

「スプリングのへたり」と言われる現象です。

もちろんコレでスプリングは設計通りの性能は発揮できないので、使用不能のゴミになります、、、

 スプリングの耐荷重に関してはあまり重要ではなく、大目にみて2g程度あれば十分です。
なぜならばロール方向で考えると、
車両運動で発生する最大片輪荷重は軸重=2gとなります。
片輪走行
この状態は片輪走行状態なので、現実にはありえない設定です。

実際にフロント軸重730kgのE36で調べてみると
ノーマルサスペンションの2kgf/mm程度のスプリングで、100㎜の縮みストロークを確保しても受け持つ事の出来る荷重は200kgfでしかなく
スプリングが請け持っている最大荷重は 1gまでの365kgf+縮みストローク分200kgf=565kgf
荷重倍数(g)で表すと1.54gしか受け持ちません
 
 そもそもサスペンションに掛る路面の凹凸による最大荷重倍数は5g以上が想定されていて
この大荷重を受け止めるのはバンプラバーなのでスプリングの選定に織り込むべき諸元ではありません
ノーマルサスペンションが酷い底突き感も無く仕上げられているのはバンプラバーの設定による衝撃吸収が優れていると判断できます。

 以上の事からスプリング自由長はダンパーストロークにより最少値が決められます。
ダンパー緒元が決定した段階で、
(フリーストローク+バンプラバーのストローク)<(メインスプリング有効ストローク+ヘルパースプリング全ストローク)
となる自由長のスプリングが
そのダンパーに取り付ける事の出来る 「最も短い自由長」になります。

逆にもっとも長いスプリング長さは
(ロアシートを一番下げた状態でのアッパーシートとロアシートの間隔 – ヘルパースプリングの自由長)です。
最初のイラストがそんな感じですよね

この範囲でスプリング自由長によるサスペンションセッティングを行います。
スプリング自由長はサスペンションが伸び縮みするストロークスピードに関係しているので、
入力に対する車両の反応速度と乗り心地の調整に用いる事が出来ます。

同じスプリングレートで自由長を変更した場合の変化傾向は、
●スプリング自由長が短く軽い(スプリング単体での固有振動数が高い)
入力に対して車両の反応が早く、シャープな操縦性
バネ上への振動伝達が早く、ビリビリガタガタした乗り心地
●スプリング自由長が長く重い(スプリング単体での固有振動数が低い)
入力に対して車両の反応が遅く、ルーズな操縦性
バネ上への振動伝達が遅く、振動が少ない滑らかな乗り心地
に変化します。

更に、同一レート、同一自由長でメーカー(設計)が異なりスプリング単体での固有振動数が変化する場合も同じ傾向で
軽いスプリングは入力に対する車両の反応が早く、乗り心地は粗くなり
重いスプリングは入力に対する車両の反応は遅く 乗り心地は滑らかになります。

E36 M3 フロントスプリング仕様変更(スプリング固有振動数の変更)
E36 M3 フロントスプリング仕様変更(スプリング固有振動数 VS 有効ストローク) インプレッション
フロントスプリング仕様変更考察 (耐荷重&ストロークUP)
フロントスプリング仕様変更考察 (ばね上固有振動数変更による旋回特性の修正)
フロントスプリング仕様変更(バネ上固有振動数の前後バランス、耐荷重、ストローク変更)インプレ

以上のことから僕は
「入力に対する車両の反応は減衰力を高める事である程度は対処できるので、ロードカーとしての乗り心地を重視して可能な限り重いスプリングを選択」しています。
スプリングの比較

ブログランキングに参加しています、記事を気に入っていただけましたら
↓クリックしていただけると嬉しく思います。

にほんブログ村 車ブログへ
にほんブログ村

全般ランキング


「サスペンション独学ノート 2017年まとめ⑤「スプリング自由長の設定」」への4件のフィードバック

  1. はじめまして。いつも参考にさせて頂いております。

    本日ふと疑問が湧いたのですが・・・スプリングに対しウェイトを巻いて重量増加をさせたならば、固有振動数に変化は有るのでしょうか?
    もしウェイトによって感触を調整できたりしたらば面白いな~と(笑)
    ご意見頂戴できれば。

    1. こんにちは、
      スプリングの固有振動数ですが、単純にスプリングに錘を付けても意味はありません

      スプリングの特性を固有振動数で見る理由ですが、
      同じレートと自由長のスプリングでも固有振動数(伸縮スピード)が異なるスプリングを作ることが出来ます。
      「素線が太くて長い」スプリングと「素線が細くて短い」スプリングで同じレートが設計できますが
      素線が太くて長いスプリングが固有振動数が低く伸縮スピードが遅くなり(ハイパコ、アイバッハ、X-coil黄色)
      素線が細くて短いスプリングは固有振動数が高く伸縮スピードが早くなります(SWIFT)
      耐荷重が大きくなるのは「素線が太くて長い」スプリングです。

      同じレートと自由長ならば単純にスプリングの重量を比較すれば良いのですが
      「異なるレート、異なる自由長、異なる内径」のスプリング伸縮スピード(特性差)を比較するためには
      「固有振動数」を求めて定量化して比較するしか方法がありません
      スプリングの耐荷重を比較しても同じ傾向になるとは思います。

      このスプリングの固有振動数差によるセッティングはあまり一般化していませんが
      同じレートでもより重いスプリングの方が明らかに乗り心地が上質になってきます。
      「乗り心地の良し悪し」は個人の差がありますが、、、ご参考になれば幸いです

  2. 解説ありがとうございます!
    伸縮スピードが支配的要素という事でとてもよく分かりました。
    確かにその通りだと思います。

    自分の妄想は・・・
    パネル等の「振動」抑制に質量の有るモノを張り付けるのと同様の事がスプリングにも言えるのかな?という程度のイメージでの考えでした。
    (微振動(というか音に近い振動数か??)の抑制に可能性が有るのかな??と)

    今後も情報配信よろしくお願いいたします。

    1. パネルの振動抑制の考え方だと、パネル自体の固有振動数を重さを変えて共振点をズラす方法ですよね
      サスペンションに応用するとすれば、錘を付けるのはスプリングではなく「バネ下部品」なら効果が出ると思います。
      ただし、1輪あたり1kg単位の錘でなければ体感は難しいかもしれません
      これはホイール重量を変更した際に体感できる重量は1輪あたり1kg程度だからです。

      もしサスペンションアームに錘を付けるのであればストローク方向にセミフローティングさせて「マスダンパー」として
      使ってみると面白いかもしれませんね
      重量とセミフローティングの硬さ設定で無限迷路な気がしますが(笑)

      公開「独学お勉強ノート」ですが考察のキッカケ作りやお手伝いになれば幸せに思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です