本編が追い付いて来たので改めて連載番号を割り振って再編集です!
「失速」良く聞く航空用語ですよね
この「失速」って言葉でイメージされるのが、
「飛行機が低速になって揚力が発生できなくなって落ちる」ってイメージされていて
”失速=墜落”のイメージが固まっていますが、、、
これ、ハッキリ言って車の事故のニュースで言われる「ハンドル操作を誤って衝突」と同じレベルです。
べつに失速したから必ず墜落って訳じゃありません
(そうだったらアクロパイロットは何回死んでるか、、、)
まずは「失速」と呼ばれる現象を正しく理解すると
「翼の表面に流れる気流がある迎角を超える事により剥がれて揚力が減少して、抗力が増加する現象」です。
つまり、翼の表面に沿って滑らかに流れてた気流がメリメリと引き剥がされてぐちゃぐちゃに渦巻いている状態です
この気流が剥がれる現象を「剥離」と言います.
飛行機のパワーを絞って滑空状態にして高度を維持するように機首を引き起こしていくと、速度エネルギーを高度エネルギーに転換していくので速度がどんどん減少していきます。
速度が減少すると、揚力は速度の2乗で減少してしまうので更に引き続き機首を引き起こしていくと
翼に流れる気流がある角度になると条件の悪い部分からメリメリと剥がれ「剥離」が始まります。
この角度が臨界迎え角(失速迎え角)と言い翼の限界です。
このイラストの翼だと17度が臨界迎え角になります
1Gでの通常失速だと速度を失うから失速ってイメージが強いですが、速度は関係ありません
あくまでも翼と気流の角度により生じる現象です。
翼の平面形状により失速が発生し、広がる傾向が異なり
セスナのような矩形翼は翼根(翼の胴体側)から失速が始まるので安定が良く
ジェット機のような後退翼では反対に翼端から失速が始まるので非常に不安定で危険です
<失速の広がり方>
通常、主翼から剥がれた空気は渦を巻き、水平尾翼を叩くので
機体に振動が伝わりパイロットに初期失速を知らせます。
さらに引き起こして迎え角を増していくと翼の剥離領域が広がり
急速に揚力を失い抗力(空気抵抗)が増加して、
翼が機体重量を支えられずに沈み始めます。
この状態になると、機体は自然と機首を下げ迎角を減少させて剥離状態(失速)から回復しようとします。
ここで機体に逆らわずに引いていた操縦幹を緩めれば通常の滑空姿勢に移り何も起こりません
どの位操縦幹を緩めるかは、「低速飛行(スローフライト)の位置まで」大体ほんの数センチです。
時々「失速したら操縦幹を押し込む」なんて話を聞きますが、アクロでもするんですかねぇ?
操縦幹を景気良く押し込んだら-Gが掛かって固定していない物が浮き上がって凄い事になりますよ(笑)
失速させても引いていた操縦幹を静かに緩めて滑空姿勢に落ち着かせつつパワーを入れれば至って安全
普通に失速させて、素直に回復させれば大きな高度損失も無く姿勢変化も穏やかで
身体に掛かるGは早期に丁寧にリカバリーすればなんとなく「ふわっ」と沈んだかな?程度です
トレーニング初期はドキドキしますが、慣れちゃえば普通の訓練科目です。
(グライダーだとエネルギーロス以外の何でもないので、「お金もったいない」って思うだけ)
で、、、この失速ですが、条件が悪いと事故に発展します。
その条件は
「低空での失速」です。
トレーニングで失速させるのは安全な高度で
「これから失速させる!!」って意識しているので
上記のとおり何も危険はありませんが
離陸直後や着陸進入に不意に失速させてしまった場合
「リカバリーに必要な高度>対地高度」になると確実に落ちます。
グライダーや小型機なら飛行速度が低い(失速速度が低速)なので生き残るチャンスはありますが、
大型機になると厳しい状況です。
300km/h以上で地面に衝突する訳ですから、生きていれば幸運です。
これも普通の状況ならまずありえません、、、
失速(剥離)にいたる程の機首上げはパイロットがハッキリ認識できる程の機首上げ姿勢なので、普通気が付きますし
失速警報機がビービ―鳴って警告を発するし、
明確な機体振動、
大型機ならスティックシェイカーが作動して操縦桿が振動、自動的に操縦桿が機首下げ方向に動きます。
じゃあ、なんで失速して落ちるのか?
パイロットが機体の姿勢コントロールが疎かになる程のオーバーワークに晒されている場合
低空での失速からスピンに発展して事故になる場合が非常に多いです
エンジン故障でパワーが足りない状態で橋や建物を飛び越えなければならなかったり、
過労でパイロットの集中力が下がっていたり、
機内の緊急事態に気を取られていたり
航空機事故は単純な原因では発生し難く、
複数の要因が揃って事故に至ります
以前、僕も離陸中に事故寸前になり幸運にも回避できましたが、
事故要因が4重のセーフティーネットをかいくぐってのトラブルになりました
最後に離陸を決断したのは機長の自分なので最終責任は自分にあります。
本当に幸運でした。
失速からスピンへ、、、
失速に入れる過程でさらにラダー操作により機体にヨーを与えると、
ヨー方向の内側翼だけが失速(剥離)して外側翼は失速(剥離)しない状態に陥ります。
もちろん失速(剥離)した内側翼は揚力が減少して抗力(空気抵抗)が増大 外側は低速飛行状態で頑張っているから強烈なアンバランスが発生
機体はヨー方向に向かって錐を揉むように自転螺旋降下に入ります。
これが、読んで字の通りの「錐もみ」(スピン)です。
この通常の錐もみ(スピン)も単純な縦方向のスピンならリカバリーは可能
スピンしている方向の逆にフルカウンターラダーを入れて引いていた操縦桿を緩める(少し押し込むとより回復が容易)
ただし自転回数が多くなって自転速度が増してくると、スピン軸と機体重心違いから遠心力による機首を上げモーメントが働くので、フラットスピンに変化してエレベーターをフルに押し込まないと出られない場合があります
機体の取説にスピンは何回転までって書いてあるので厳守です、
守らなかったらスピンから出られなくなって落ちます。
これが失速とスピンの関係です。
基本的な失速やスピンからのリカバリーはライセンス取得前に習得していますし
機体にも失速に近付くと警報を発したり、自動でリカバリーをする機能も搭載されているので
失速だけで墜落に至る事は極めて希であり
複数のトラブルによりパイロットの対応力キャパシティを越え予定調和を維持出来ずに事故に至るケースがほとんどです。
失速は「速」の一字が入りますが速度には関係なく臨界迎え角を越えることにより生じます。
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