読み物程度の航空工学⑲「横風の限界って?」

読み物程度の航空工学⑲「横風の限界って?」

日曜日の運航は風が強すぎて開店休業になっちゃいました

飛行機を格納庫から出して点検中に既に北西風が吹き始めている状況で
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これは早々に風が強くなってくるパターン、、、

15分ほどの点検時間の間にどんどん風速が増してきて
エンジンの暖気&試運転を始めた頃には、
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吹き流しが真横になって跳ねている

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駐機している飛行機は風に弱いので風に正対させているけど
風に煽られてユサユサと揺さぶられる

うぅっ、、、、、既に10m/s超えちゃってるなぁ

しかも、風向きが悪い
滑走路の向きはコンパスヘディング(磁方位)で330°&150°
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「R/W 33&15」ってヤツで
滑走路に書いてある一番大きな数字
気持ちはわかりますが「88」とは絶対に書いてないです(笑)

離着陸は基本的に向かい風で行うので、
今日は北西風だからR/W 33 (330°)を使います
もちろん330°の真正面の風なんて殆ど無いので横風成分を含んだ風が殆どです。

地上待機で飛べなかった一番の原因は乱流もありましたが、一番の理由は「横風が強すぎたこと」

この、横風成分ってヤツが飛行機の離着陸を難しくする一つの要因
飛行機は離陸して空に上がれば空気の中を揚力を使って飛ぶので、
空気が動けば(風)一緒に流されます。
地面との摩擦が使える地上の乗り物と違って、
流体相手の航空機と船はモロに影響を受けます

向かい風なら、同じ大気速度(A/S エアスピード)でも対地速度(G/S グランドスピード)は遅くなり
追い風なら、同じ対気速度(A/S)でも対地速度(G/S)は速くなります
これは旅客機の旅で顕著に表れますよね、
西から東に吹くジェット気流の影響で同じ区間でも西向きは時間が掛り東向きは早く到着します。

この前、BAのB747が台風の影響で強くなったジェット気流を使って大西洋横断最速記録出してましたね
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対気速度は亜音速のB747が時速400km/h近いジェット気流に乗って対地速度は1327km/hにもなった結果です。

こんな感じで”向かい風&追い風”は対地速度が変わりますが
横風成分は同じヘディング(方位)でも風に流されてトラック(航跡)が変わっちゃう

地図上に引いたコースを飛ぶために、目的地に向かってヘディング(方位)をコンパスを見ながら合わせても
風下側にどんどん流されて目的地の風下側に到着します。
この流された角度を「偏流(へんりゅう)角」(=DA ドリフトアングル)って言って
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流されないようにヘディング(方位)を風上に振る角度を「偏流修正角」(=WCA Wind correction angle)って言います。
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※ヘディング(方位)っていっても色々種類があるんですが、今回は面倒なのでシンプルにイキます
こんな具合に普通に巡航している時は偏流修正角さえ取れば希望のコースを飛び目的地に到着できますが

問題は離着陸、
離着陸でタイヤが地上に接している時は偏流修正角付けて斜めには走れないので
横風で流される分を風上に機体をバンクさせて滑らせて飛ぶ ウイングロー(Wing Low)って方法で離陸&接地を行いますが
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どんな事にも「限度」ってヤツがある
風が強いからってドンドン風上方向へバンクを深めて
機軸と進路を合わせる為に風上へラダーを踏みこんでいくと
ラダーの舵角が一杯になったところで空力的にメイッパイの状態
もちろん限度を超えてバンクを深めると翼端が地面に当たっちゃうから
着陸じゃなくて墜落になっちゃう(笑)

飛行機の運航は安全を数字で担保するので「決まり事」として横風限界がいくつか定められます、

①飛行クラブや事業会社などが設定する「クラブ規程」や「運航規程」に決められた横風限界
「うちのクラブ(会社)じゃ安全マージンを考えてココを限界にします。」って限界値なのでこの横風を超えて運航する事はありません

僕の所属する「日本グライダークラブ」での風に関する運航限界は、
正対風 15m/s(30kt)
横風 6m/s(12kt)
追い風 2.5m/s(5kt)
の規程が定められています。

②航空機の「飛行規程」に掛れている「実証された横風速度」
この値は「標準的な技量のパイロットによる実証された横風の風速」を意味しています。

「限界値」って書かれないのは横風での離着陸はパイロットの技量に左右されるので明確な限界値として定める事が出来ません
「横風限界6m/s って飛行規程に書いてあったのに3m/sの横風で事故ったぞ!! 機体の設計が悪いんだ メーカーは責任を持って賠償しろっ!!」って具合に
テメエのヘタクソを棚に上げて訴訟騒ぎ起こされかねないですからねぇ
恐るべき訴訟社会、、、

僕が飛ばしているハスキーの実証された横風速度は15MPHなので6.7m/s
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低翼面荷重の低速機なので風の影響を受けやすくあんまり横風には強くないし
尾輪式はグランドループに陥りやすい「魔の瞬間」を持っている、
そもそも風が強いと地上滑走ですら大冒険
文字通り「吹けば飛ぶ」ってシロモノです(笑)

横風の指標は真横からの風なので角度が浅くなるほど
強い風まで大丈夫
三角関数を使って計算するのが一番正確ですが、
面倒くさい

一発で簡単に横風成分を確認するならこの表が一番
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滑走路方位に対して真横のクラブ規程の限界は6m/s
滑走路方位に対して60度だと7m/s
滑走路方位に対して30度だと12m/s
まで運航可能です。

これらの数値を鑑みて最後に運航の可否を判断するのは、
自分の技量と機体性能を考えての機長判断
飛行機の「実証された横風速度」と運航規程(クラブ規程)に定められた風向風速限界より風が弱い条件であれば運航OKですが
最終判断は機長となります。

横風着陸が苦手なパイロットが「この風じゃ無理!!」って言えば運航ストップです。

「Aさんはこの風で飛んだけど、Bさんは飛べない、、、」実際によく遭遇する状況ですが、
パイロットの優劣の判断にはなりません

・Aさんは自分の横風限界が見えていなくて、「たまたま上手くいった」だけで実は心臓バクバク、、、かも知れなくて
・Bさんは自分の技量を数値化していて、風向風速を見て根拠を持って飛ばなかったって事も考えられますよね
Aさんが機長の飛行機に乗りたいですかぁ?(笑)

「飛ばない判断」って結構勇気が必要なんですよ、、、
とりあえず、文句や皮肉の一つも聞こえてきますからねぇ
出来る対抗策はただ一つ
「この気象条件じゃ 僕はヘタクソなんて怖いですぅ~ すみませんねぇ」ポリポリ、、って頭掻きながら逃げ回りましょう(笑)
飛ばなきゃ事故りませんから

一番怖いのは、、、
飛んじゃってから風(天候)が変わって限界を超えちゃうパターン
天気の確認って重要です。


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「読み物程度の航空工学⑲「横風の限界って?」」への2件のフィードバック

    1. ありがとうございます
      A380がフラフラになってますね~
      クラブで接地した後、
      スポイラー立てて揚力を減らしてタイヤに荷重する時に脚が折れたりタイヤがバーストしちゃいそうで怖いですね~

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