読み物程度の航空工学⑭ 「尾輪式と前輪式って?」

読み物程度の航空工学⑭ 「尾輪式と前輪式って?」

今回は飛行機の着陸脚を見てみましょう
ランディング ギアとかアンダーキャレッジって呼ばれてるヤツです
ざくっと分類すると、、、

・二次大戦までのレシプロ機やハスキー、パイパーカブ等の不整地運用を考慮した小型機などが「尾輪式」
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・二次大戦以降のジェット機など、舗装滑走路を前提として近代飛行機が「前輪式」
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って感じですね

この尾輪式と前輪式の飛行機の一番の違いは、重心位置に対する車輪の配置で
重心位置に対して主輪が後ろにあるのが「前輪式」
重心位置に対して主輪が前にあるのが「尾輪式」
前輪式と尾輪式

どちらも大差無いように思えますが、、、、
「前輪式」は正しい設計で「尾輪式」は乗り物としては致命的な欠陥設計なんです
なぜ尾輪式がダメダメなのかは重心位置と転がり抵抗が発生する車輪の位置関係を見ると一目瞭然で

「前輪式」は
「前輪式」は重心位置が抵抗となる主輪の前方にあり
抵抗を生じる主輪が重心位置より後方の左右に対に存在する事です。
前輪式の復元力
この配置で慣性を付けて地面を転がしてみると、左右主輪の転がり抵抗にアンバランスが生じても
重心がより抵抗の大きい側の主輪(作用点)を引く力が生じるので自律安定します.

消しゴムに紐をつけて引っ張っているイメージですね
消しゴムを引っ張る
つまり、自立安定している「アンダーステア特性」の正しい設計って事ですね

「前輪式」に対して「尾輪式」は重心位置が抵抗となる主輪の後方にあり
抵抗を生じる主輪が重心位置より前方の左右に対に存在する事です。
この配置で慣性を付けて地面を転がしてみると、左右主輪の転がり抵抗に僅かでもアンバランスが生じると
重心が抵抗の大きい側の主輪(作用点)を軸に巻き込む動きが始まり、作用点を追い越しスピンします
尾輪式の不安定要素

消しゴムを押して進んでいる状態で、バランスを崩すとその場で回ってしまいます。
消しゴムを押す
この急激な地上滑走中のヨーイングからのスピンは「グランドループ」と呼ばれていて「尾輪式」飛行機の地上滑走中事故の多数を占めています

つまり、、、「尾輪式」は乗り物の設計常識としてあり得ない安定性が負に設計されている「オーバーステア特性」で立派な欠陥品って事です。

さらにピッチ方向で見てみると
「前輪式」は重心位置が主輪の前方にあるので
着陸時は”フレアー”と呼ばれる「引き起こし操作」で降下率を減らして機首を持ち上げた接地姿勢を作り接地(タッチダウン)させると
重心位置の後ろの主輪から接地するので、主輪を軸として降下率が機首下げモーメントとなり
自然と機首が下がりAoA(迎え角)が減少し、揚力が少なくなり着陸が容易になります。
前輪式の着陸
つまり、適正な降下率で接地させれば飛行機が勝手に機首を下げて安定した着陸してくれます。
前輪式着陸

「前輪式」に対して「尾輪式」は重心位置が主輪の後方にあるので
重心位置の前方の主輪から接地するので、主輪を軸として降下率が尾部下げモーメントとなり
結果として機首上げになりAoA(迎え角)が増え、揚力が増して浮き上がろうとします。
これは適正な降下率かつ失速速度付近の低エネルギーで接地させれば着陸可能ですが
失速速度より速い速度の「エネルギーを持った状態」で接地すると、機首上げ作用によりAoA(迎え角)が増して大きくバウンドしてしまいます。
尾輪式の跳ねる理由
このバウンドを上手く処理してエネルギーを減衰させ、且つ適切な降下率で接地させれば着陸できますが、
バウンドとパイロットのピッチコントロールの周期が合わないとバウンドが発散して最終的に機首から地面に突っ込む「ポーポイズ」に至る事もあります。


尾輪式でバウンドからポーポイズって色々探したんですが良い実写参考映像が見つかりませんでしたので
シミュレーター映像をお借りしました。
イイ感じで跳ねてますね、、、、

ポーポイズは前輪式の飛行機でも発生しますが、尾輪式飛行機は持ち前の「不安定要素」から「速度余りの状態」でバウンドが始まるとポーポイズに陥る可能性が自ずと高くなります。
かなり無理に降ろしてブッ壊してますねぇ、、、

以上の事から、尾輪式は着陸の基礎的な部分「適切な降下率と接地は失速寸前の低エネルギー状態」を厳守しないとバウンドが始まり
接地後も完全停止まではオーバーステア特性でフラフラとスピンしやすい地上滑走を、スピンしないようにバランスを取りながら減速していく必要があります。
ただでさえ飛行から地上滑走への「意図的な穏やかな地面との衝突」を作る丁寧な着陸操作で、さらにピッチ&ヨーの2軸が不安定になるって事です。

普通の肌感覚を持つパイロットが初めての尾輪式飛行機の着陸で「コレはヤバい、、、」って感じるのは
正しい感覚で「機体の不安定要素」を感じ取っているんだと思います。

じゃあ、、、なんでこんなダメダメな尾輪式を採用するのか?って
「最初に1機作ってダメだって理解したなら前輪式に変更すれば良いでしょ!!」って、、、
まぁ、確かにそうなんですが
尾輪式を使わなきゃならない理由ってヤツもちゃんとあるんですよ~

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「読み物程度の航空工学⑭ 「尾輪式と前輪式って?」」への3件のフィードバック

  1. とても参考になる記事ありがとうございます。マイクロライト「Rans Coyote」に乗っています。前輪式ですが、尾輪式を降ろせる本物の飛行機乗りになりたいと思っています。
    さて、前輪式、尾輪式にかかわらず、ポーポイズを避ける最良の策は①失速寸前、あわよくば失速で着地、②それにもまして機首上げをしっかりして、バウンドしても機首が上がる→揚力発生しないようにするべし、と聞きましたが、いかがでしょうか。尾輪式の場合、あえて機首で天を突き、尾輪で着地、もありかとおもいます。

    1. 猫機長さま
      コメントありがとうございます。
      飛行機の着陸ですが
      一番大切な事はアプローチの安定だと考えています
      動力機なのでトラフィックパターン、パス角、大気速度は何回着陸しても同じに揃える事が可能ですよね
      (もちろん強風条件ではウィンドグラジェンスやガスト成分を加味して大気速度を増やしてアプローチしますが)

      特にパス角と大気速度は重要です
      滑走路に対するフレアー開始ポイント、高度、速度が揃えば機体が持っている総エネルギー量が等しいので同じ場所に接地させる事が出来ます。

      フレアーに関しては感覚的な部分が多いので
      「衝撃の無い滑りこむような接地」はあまり意味がありません
      フレアー不足で大気速度を残して接地させる方がエネルギーが残っている状態なので、バルーニングやポーポイズの原因になります。

      正しい接地は対地20~30cmくらいでしっかりフレアーを掛けて失速状態で「どさっ!」と降ろすのがもっともエネルギーが低く状態での接地なので一番安全です。

      これは着陸の基本ですので前輪式、尾輪式に関係なく大切な事です。

      尾輪式に関しては3点接地であればしっかりとフレアーを掛けて僅かに早く尾輪から接地させます

      万が一バルーニングやポーポイズに入ったら誤魔化して無理に降ろそうとせずに
      着陸復行(ゴーアラウンド)して着陸をやり直すのが最良の判断です
      (無理して降ろす癖が付くと いつか、、、)
      無理せずに安全運航で楽しみましょう♪

      1. ご親切に、すごい参考になるご返事大変感謝します。
        パス角と対気速度については、角度が小さすぎ、対地速度ばかり気にする傾向あり、追い風着陸など対気速度の重要さを再認識しました
        ぼくのホームベースは登り傾斜のきつい滑走路なので、フレアーがたりないんじゃね?とうすうす感づいていましたが、タイラップさんの一言で確信できました。
        地上3寸(実際は対地20~30cmくらい)でフレアー・失速させて、とんと降りることを当面目標にさせていただきます。
        勝手ながらぼくのHPにリンクを貼らせていただきました。また、日本ではなかななさそうなEXPERIMENTAL機の世界を紹介した当方のサイト「アーリーリタイア・軽飛行機で空を飛ぶ」もご紹介いただけますと大変幸いです。これからもいろいろぜひご教授お願いします。ありがとうございます。

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