読み物程度の航空工学⑬ 「航空機用レシプロエンジンの点火系」

ハスキーに搭載されたエンジン、
ライカミング O-360-A1P
series-engine-360
排気量5916cc
ボアxストローク 130.2mm x 111.1 mm
圧縮比 8.5:1
最大出力 180hp@2700rpm
乾燥重量 117kg
使用燃料 91/96 avgas
燃料消費量 7.8 US gal(30 L)/h ~ 9 US gal (34 L)/h
TBO(オーバーホール時間) 2000時間毎

この小さい航空機用の
「超ローテク 低出力 高燃料消費 高環境負荷レシプロエンジン」
を見てみると、、、

水平対向エンジンの効率の悪さを避けた良い設計だと思います。
エンジン寸法を詰めるとストロークが取れずピストンが大きくなりビックボア&ショートストローク傾向で熱効率悪いのは「北米生まれで気にしてない」からしょうがない(笑)

・ビックボア&ショートストロークで火炎伝播が間に合わないんだけど、
「故障に対する冗長性で独立2系統点火系(ツインプラグ)でセーフ♪」

・エンジン寸法を詰めるほどコンロッドも短くなるから連幹比が悪く高回転が苦手なんだけど、
「どうせ最高回転数が2700rpm程度なので問題なし!」

・動弁系がOHC設計だと左右バンクにそれぞれ必要になるので構成部品も多くメカニカルロスが大きくなるんだけど
「OHV+プッシュロッドなので部品数は直列と同じ」

僅かな水平対抗の利点は
上下方向に薄いから小型機にとっては前面投影面積が少なく(星形に比べて)空力特性が良い事と
シリンダー数を増やしても前方視界が妨げられないくらいかな、、、

あとはターボの置き場所に困らないって事か(笑)

シンプルな基本設計で大量生産して多くの人柱でトコトン壊しつくし「血塗られた歴史」でここまでの信頼性を築いたエンジンってそうそう無いんじゃないかな?
「空飛ぶエンジン」ですから「新設計高性能です」って最新鋭エンジン渡されてもイマイチ心には響かないなぁ、、、
だって、飛んでいて壊れたら着陸まで面倒見なきゃならないのはパイロットですからねぇ、

さて、今回は点火系のお話、
ちょっと前に不具合があって整備した時の覚え書きです

航空機用レシプロエンジンは基本的に独立2系統のツインプラグです。
独立2系統の理由は点火系故障に対する冗長性を持たせること(片方壊れても着陸まではエンジン停止を免れる)と
ビックボアによる「平べったい広い燃焼室」での火炎伝播(燃え広がり)が間に合わず燃焼効率が悪いので、2か所から点火して燃焼効率を良くしています。
この辺りはポルシェも同じ設計でポルシェは飛行機に比べ更に高回転エンジンなのでツインプラグは必須になっています。

点火方式は、最もシンプルでバッテリーが無くても運転できる「マグネトー点火方式」
コイルの中で磁石を回して発電して、昇圧コイルに電力を供給
コンタクトブレーカー&コンデンサーで電流を断続する事で昇圧コイルの作用で2万ボルトに昇圧、
マグネトー本体と一体になったデストリビューター(配電器)で各シリンダーのプラグに電流を流す。

身近な物だとチャリンコのライト(足で点灯しようとしてスポークにつま先突っ込んでコケたアレ)に昇圧コイルとコンタクトブレーカー&コンデンサー付けただけです。
現用エンジンで採用されているのは、「肩掛けの草刈り機」とか「チェーンソー」くらいかな、、、、

この古典的なマグネトー点火方式を使い続ける一番の理由は、
「バッテリー電力で点火するバッテリー点火方式」と異なり完全に電気系統(カッコイイ良い方だとアビオニクス)から独立しています。

つまり、
一度エンジンを掛けてしまえば電気系統のマスタースイッチを切ってもバッテリーが空になってもエンジンは回り続けます
この「完全独立して回り続ける」って事が一番重要で、機体の電気系のトラブルがあっても飛行を継続することができます
電気系統の故障でエンジンまで巻き添え喰らって止まる設計は嫌ですよね~

このマグネトーがエンジンの後ろに左右1機ずつ取り付けられていて、左右バンクの上下プラグに振り分けられています。
DSC_1384
右マグネトーから(奥の黒いヤツ)
DSC_1413

DSC_1414
右バンクの上プラグ&左バンクの下プラグ

DSC_1385
左マグネトーから(奥の黒いヤツ)
DSC_1415

DSC_1412
左バンクの上プラグ&右バンクの下プラグ
って具合に互い違いになっています。

点火時期の調整は実にシンプル、
1番シリンダーの上死点を基準にして、タイミングライトを見ながら、マグネトーの固定ボルトを緩めてネジる(笑)
昔のデスビの調整方法と一緒です。
(デスビってバカにするもんじゃありません、8000rpm付近まで常用のB16&B18もデスビがクルクル回ってます)

左右マグネトーをネジって、点火時期を合わせて固定ボルトを締めこんで固定する超アナログな調整方法なので
完全同調しているようで、完全同調できないのが現実、、、

それでも、時々偶然「マグネトーの神様の気まぐれ」で完全同調しているとしか思えない回り方をする時があります。
その時は振動も少なくて綺麗な回り方しますが
なぜかすぐにズレていつもの回り方に戻っちゃうんですよね~(笑)

左右マグネトーは完全に同じものでは無く、エンジン始動時にのみ使う「インパルスカップリング」が左マグネトーにだけ装備されています。

このインパルスカップリングは始動時の極低回転時のみ作動して、クランクの回転に合わせてスプリング(ぜんまい)を巻き
設定された点火時期から僅かに遅いタイミング(始動性が良い)でスプリングを開放して勢い良く磁石を回して強力な火花を発生させます。
この機能は点検時にプロペラを手回しすると、圧縮上死点付近で「カンッ!、カンッ!!」とスプリングが弾ける音がします。

点火システムの操作はコクピットのイグニッションスイッチ(イグニッションキー)で行い
DSC_1409
OFF-R-L-Bothの4段表記
OFFはもちろん点火しない(グランドアース)
R 右マグネトーが作動
L 左マグネトーが作動
Both 左右両方のマグネトーが作動します。

離陸前のエンジン試運転項目にも、もちろんマグネトーチェックは入っていて
エンジンが所定の温度以上になった状態で、指定のエンジン回転数でBoth→L Both→Rに切り替えて回転数変動を確認します
O-360-A1Pの指定値は
測定回転数 1900rpm
片方もマグネトーに切り替えた時に回転低下は-150rpm以内
左右マグネトーの回転低下差は50rpm以内です。

この確認だけで、「点火状況の確認」と「適正な点火時期」の確認が出来ます。
この点検で炙りだせる不具合は多くて、マグネトーの不良、点火時期調整不良、ハイテンションコードの漏電、プラグの鉛詰まりなど多岐に及びます。

さて、、、航空機のマグネトー点火方式の特徴はこれくらいかな、、、
何か思い出したら追記します、

最後に、大切な注意事項
飛行場に遊びに行ったり、小型機に乗る時に絶対守らなきゃ命に係わる事があります。

飛行機のプロペラには安易に近寄らない事、絶対に回転面には入らない事!!
DSC_1428

マグネトー点火方式って「点火させない事」に関しては信頼性が低いです。
マグネトー点火方式の「イグニッションスイッチ OFF」はマグネトーで発生した電気をプラグに流さずにグランドにアースさせている状態なので
イグニッションOFF

アース線が切れていたり、イグニッションスイッチが開固着しているとプラグに電気が流れて火花が飛び点火しますので、
何かの間違いで燃焼室に燃料が残っている状態だと突然エンジンが回り始める可能性があります。
イグニッションOFF 断線

ラジコン飛行機を飛ばしている方はご存じですよね、回転中のプロペラに指突っ込んだ時のアノ痛み、、、
指がズタズタに切られて文字通り血まみれになります。

多くの方が飛行機乗りの写真を真似て「プロペラに手を掛けたポーズ」で写真を撮ったり、プロペラに触れたがりますが
飛行機のり
もし実機のプロペラに叩かれたら、、、
幸運でも弾かれて骨折
最悪 死亡もしくは手足が千切れます。
小型機の小さなエンジン&プロペラでもバードストライクすると大型猛禽類(トンビ等)ですら一刀両断する位の力はありますから

こんな不幸な事故が起こらないように、通常のエンジン停止手順は「ミクスチャー(空燃比)レバーをOFF」にして燃料を遮断して燃焼室を掃気してエンジンを止めますが
機械を人間が扱うので必ず「間違い」は発生しますので、プロペラに安易に近寄っちゃダメです。

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